学校の屋上って穴場だと思う。
お弁当食べたり、秘密の話したり、好きな人に想いを伝えたり。

あたしには夢がある。
屋上でやりたい夢がある。


「…なにしてんの?」
「え?」
「都築さんだよね。」
「そうだよ。」
「なにしてんの?」
「さぁ。」
あたしは適当に答えた。
夢まであと30cmなのに
こいつはあたしの邪魔をする。
授業中、体調が悪いと嘘をついて
やっとここまで来たのに。
ポケットには、必要なものは揃っている。
かばんの中や、部屋の中も片付けてきた。

「危ないと思うよ。」
「そんなことないと思う。」
空を見上げたら、青空で
白い雲がわたがしのようにぷかぷか浮かんでいた。
最高の天気。最高の条件。
実に清々しい。

「都築さん、授業は?」
「上原くんこそ授業は?」
早くしたいのに。
あと30cm。あと30cm。
こいつが居たら、できないじゃないか。

「俺はいいの。都築さん。」
「うるさいよ。」
「うるさくない。」
「…あんたに何が解るのさ。」
たかが、去年同じクラスってだけの顔見知り。
そんなやつに邪魔されるなんて思いもしなかった。

綺麗事はいらない。

もう決めたのだ。
あと30cm。

「都築さん。」
「うるさい。」
「正直都築さんってクラスでも浮いてたし、したいなら勝手にやったらいいと思うよ。」

「…え?」
「俺もう行くからね。知らないから。お願いだから遺書とかに【最期に会ったのは上原だ】とか書かないでね。」

そう言うと上原くんはすたすたとドアの方に向かっていった。

あたしは怒りとか悲しみとかそうもんじゃない感情がこみ上げてきた。

あたしってなんなんだろうか。
なんていう生き物なんだろうか。

足元を見た。
あと、30cm。
ふと前を向くと
あたしの目の前には景色が広がった。
学校のグラウンド、近くの駅、高層マンション、住宅地、遠くに見える山、青い空、白いくも。
全部怖かった。
目に入るもの全部怖かった。
あたしは全部怖くて
全部から逃げ出したかっただけなのに。
ただ、人よりほんの少し勇気が足りないだけなのに。

あたしは泣いた。
うずくまって泣いた。
30cmが怖くなってしまった。
たかが30cm進むだけなのに
あたしは怖くなってしまったのだ。

無情だ。神様は。
あたしはみんなに見捨てられて。
自分で区切りをつけることができない。

屋上のドアが開いた。
びくっとなった。
そこには上原くんが立っていた。

「ほらね。」

そう一言いって
彼はあたしを30cmから引き離した。


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あと、30cmだったのに。