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頭にこびりついて離れない。
あなたの歌うワンフレーズ。
「それ、何の曲?」
「んー?」
「…。」
「…。」
そして彼は歌う。
ばかのひとつ覚えみたいに。
何の歌かもわからない。
ただ、「きみを幸せにする」とかそんなような歌詞だった。
彼は話さない。
良くも悪くも。
だから小さな声で歌う。
きっと彼なりの愛情表現。
真っ暗な車の中で
頭に残るこのフレーズ。
彼は歌う。小さな声で。へたくそな声で。
私は息をひそめる。
彼の歌を聴くために。
歌詞ならなんとだって言えるんだ。
好きだとか愛してるとか。
悲しいとか憎いとか。
どんなことだって乗せてくれるのに。
どうしてメロディに乗らない言葉は言わないんだろう。
違う道を行った私たち。
今でも真っ暗な車の中で思い出す。
彼が繰り返したフレーズ。
不器用なサイン。
受けとれなかった私。
頭にこびりついて離れない。
あなたが歌ったワンフレーズ。
fin.
小さく聴こえたワンフレーズ
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