つらい思いをするために生まれてきたのならば
そんな人生いらなかった。
つらい思いをするために恋をするならば
そんな恋したくなかった。
馬鹿だなぁ、私は。
自分から傷つきにいくことないのに。
どうせ駄目なんだろうな。
じゃあ、もういいよ。
自分でピリオドを打つからさ。
邪魔しないで。誰も。
お願いだから。
車を飛ばした。
国道沿いの店のネオンがぐんぐん遠ざかっていく。
黄色の看板のラーメン屋。
緑の看板のファミレス。
もう目に入らない。
目指すのはその先。
私は万歳して飛び込むの。
電話が鳴った。最近きいてなかった懐かしい着信音。
たった一人だけ設定した着信音。
もう二度ときくことのない音だと思ってたのに。
今さらか。こんな時に電話掛けてくるなんて笑えてしまった。
笑えてるのに、何故だか涙が出る。
部屋も片付けた。手紙も書いてきた。
仕事も全部終わらせた。
あと終わるのは私だけなのに。
こんな時に限って。
オレンジ色の看板の牛丼屋の駐車場に車を止めた。
震える手で電話に出た。
「…もしもし?」
「あー、俺だけど。」
久々にきいた声。
頭の中で、いろんなシーンがよみがえる。
「知ってる。」
「元気?」
「元気。」
「そう。」
会話が途切れて電話口からはざーという音がきこえる。
付き合ってる時電話してても、向こうはいつも黙っていた。
電話は向こうからかけてくるのに。
この沈黙が懐かしくて
でもつらくて寂しくて涙が出てきた。
向こうに悟られないように必死で息を殺した。
「ひとりでさ、考えてた。」
「ん。」
声を出すと泣いているのがばれるから、小さく頷いた。
「今ね、すごく寂しい。お前がおらんのがすごく寂しい。だけど。」
「これは俺がさ、決めたことだから。都合のいいことは言わないけど。」
「ありがとう、って思ったから伝えるわ。そんだけ。」
笑えてしまった。泣いているのに笑えてしまった。
あまりにも彼らしい電話だったから。
「なに笑ってんの?」
「なんでもない。」
鼻声で答えた。
終わったものは元通りには戻らないのに。
彼と過ごした日が走馬灯のようによみがえって
胸がぎゅーっと苦しくなって
その思い出が私を苦しくさせてるのに
その思い出が私を支える。
彼が私のことを苦しくさせたのに、たった今私は彼に救われた。
つらい思いをするために恋をするならば
そんな恋したくなかった。
でも今は、つらかった恋でも
したくなかったとは思わない。
生きているのはつらいけど
まだ生きてみたいって思った。
私はオレンジ色の看板の牛丼屋に入って、牛丼を持ち帰った。
怖いほどきれいに片づけすぎた部屋で、ひとりで牛丼を食べた。
明日も明後日も私はこの部屋でなにかを食べる。
ただそれは生きるために。
もう少し、生きてみよう。
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